【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(20)
交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。
消極損害その2 後遺症による逸失利益(20)
6.鼻の障害
鼻の後遺障害は,後遺障害別等級表上では,9級5号の鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すものしかありません。外鼻の軟骨部の全部又は大部分を欠損し,鼻呼吸困難または嗅覚脱失の状態が対象となります。
鼻を欠損せずに鼻の機能障害のみが残った場合,嗅覚脱失または呼吸困難は12級12号,嗅覚の減退は14級9号が準用されます。
また,鼻の欠損は,外貌の醜状障害として7級12号が認められる場合があります。鼻の欠損とならない一部欠損は,12級14号となります。
(1)認定例
・ 幼稚園教諭(固定時43歳)の軽度聴力障害,頭部外傷後けいれんの可能性,嗅覚脱失併合11級につき,嗅覚脱失が通常の職についている女性と比較し一層の支障を来しているとして,24年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 花屋経営(固定時30歳)の嗅覚脱失,脳挫傷後の精神・神経障害等併合11級につき,事故後に花屋を閉店し鼻関係のアルバイトをしているが錯覚臭が続くと体調が悪くなり,嗅覚がなく仕事上支障があること,料理,掃除等家事労働にも影響を受けているとし,他方で頭部の疼痛は慣れ等により労働に対する影響が逓減するとして,10年間20%,その後27年間14%の労働能力喪失を認めた。
・ 高校生(固定時16歳)の嗅覚減退及び異常(ある種のにおいをかぐと頭痛,吐き気が生じる,12級)につき,18歳から67歳まで14%の労働能力喪失を認めた。
・ 大学生(固定時24歳)の嗅覚脱失,頭部外傷による神経症状等併合9級につき,事故後大学及び大学院を卒業し,公立中学の臨時講師として同年齢者の平均収入額を大きく上回る収入を得て,学会でも評価されるような論文を共同執筆するなど学術的にも目を見張る業績を上げているものの,嗅覚脱失は中学技術家庭科の教師としては,ガス漏れ等の危険を察知して授業中の生徒を迅速・的確に避難させることができないとか,木材のにおいを授業で教えることができない等の不都合があり,大きなハンディキャップといえるとして,43年間14%の労働能力喪失を認めた。
・ 電池製造に携わる上場会社技術職会社員(固定時38歳)の脳挫傷等による嗅覚脱失12級につき,症状固定後復職し,減収も降格もなく,勤務会社も配転はないと回答しているものの,職務遂行上嗅覚に頼る状況が少なからずあり,将来嗅覚脱失の障害による経済的不利益が生じるおそれが高いとして,67歳まで14%の労働能力喪失を認めた。
(2)自賠責保険より高い等級や喪失率が認定された例
・ 主婦(固定時59歳,自賠責は平衡感覚障害,嗅覚脱失,難聴併合14級)につき,後遺障害の内容と箇所が3ヶ所に及ぶこと,料理を作るに当たって嗅覚も重要であることを考慮し,10級に相当するとして,8年間27%の労働能力喪失を認めた。
・ 調理師・料理店経営(固定時59歳)の嗅覚脱失12級につき,味覚は素材の良否や完成した料理の風味いかんを見極める等,料理人の技術を発揮するうえで極めて重要な感覚のひとつであり,これを失ったことは料理人として致命傷に近い状態を評価すべきとして,平均余命の2分の1,20%の労働能力喪失を認めた。
愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
鼻の後遺傷害については,自賠責保険より高い等級や喪失率で逸失利益が認められた例もあります。
逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。