【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(21)

2022-04-22

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(21)
7.口の障害
  口の後遺障害は,咀嚼機能障害,言語機能障害,歯牙傷害,味覚機能障害があります。
咀嚼の機能障害は,かみ合わせ障害,咀嚼筋の損傷,顎関節の損傷,開口障害によって,かみ砕く能力がなくなってしまうことです。咀嚼の機能障害は,同じ口の障害である言語機能障害との総合評価で等級認定されます。1級および3級の「咀嚼の機能を廃する」とは,味噌汁やスープ等,流動食以外は摂取できないもの,4級および6級の「咀嚼の機能に著しい障害を残すもの」とは,お粥,うどん,柔らかい魚肉またはこれに準ずる程度の飲食物でなければ噛み砕けないもの,9級および10級の「咀嚼の機能に障害を残す」とは,ご飯,煮魚,ハム等は問題がないが,たくあん,ラッキョウ,ピーナッツ等はかみ砕けないものをいいます。12級は,開口域が正常時の半分以下となり,咀嚼に相当の時間を要することです。
言語機能障害は,喉頭の損傷によって,声が出にくくなったり,発音できなくなることです。4種の語音(口唇音,歯舌音,口蓋音,喉頭音)を発音できるかどうかで判断され,1級~10級という重い等級が認められます。
歯牙傷害は,著しく欠損したか失った歯が3本以上になると,10~14級という等級が認められます。乳歯や親知らずは対象になりません。また,歯牙障害専用の後遺障害診断書に所見を記載してもらう必要があります。
味覚機能障害は,味覚を失ったり,低下することです。舌の損傷や顎周辺組織の損傷のほか,脳の機能障害が原因となることがあります。甘味,塩味,酸味,苦味の4味質のすべてが認知できない場合は12級,1~3味が認知できない場合は14級が認定されます。

(1)認定例
  ・ 有職主婦(固定時41歳)の咀嚼機能障害等労災併合10級につき,67歳まで27%の労働能力喪失を認めた。
・ 飲食店店長(固定時35歳)の歯牙欠損及び骨植不良,咀嚼障害及び開口障害,左口角,左鼻翼から頸部までの感覚消失,アロデニア併合9級につき,咀嚼障害は食材や酒類の調達で重い物を持ち上げる際や調理に支障を及ぼしうるといえ,顔面等の感覚消失や流涎も接客業にとって些細な障害とは言い難い等として,当初の5年間は35%,それ以降67歳までの27年間は20%の労働能力喪失を認めた。
(2)自賠責保険より高い等級や喪失率が認定された例
  ・ 有職定時制高校生(固定時27歳)の声帯直下の気管部分形成による発声障害,左握力低下,左肩関節可動域減少等12級につき,会話機能が十分でなく対人折衝が困難,運動制限等から,40年間25%の労働能力喪失を認めた。
・ 聴覚障害者の主婦(固定時60歳,自賠責は右肩関節機能障害,右鎖骨変形障害,左手関節神経障害の併合11級)につき,手話は口語による意思疎通伝達手段に相当し,手,肩の後遺障害により手話に影響が及んだ場合は,意思疎通や手話能力の喪失程度を中心に個別判断するのが相当として,利き手である左手母指・小指の可動域制限,左手関節・右肩関節の可動域,表現しにくさ,長時間の手話による痛み・疲れ,手話能力は従前の60%との診断書の記載等を総合し,手話言語能力が12級程度失われたと認めた上で,他の障害と併合して11年間20%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 口の後遺傷害については,自賠責保険より高い等級や喪失率で逸失利益が認められた例もあります。
 逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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