【コラム】:消極損害その3 死亡逸失利益(8)

2023-04-07

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その3 死亡による逸失利益
2.基礎収入
(1)稼働収入
 ① 有職者
イ 事業所得者
自営業者,自由業者,農林水産業者などについては,申告所得を参考にします。
申告額と実収入額が異なる場合には,立証があれば実収入額を基礎とすることができます。
所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には,所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定します。
現実収入が平均賃金以下の場合,平均賃金が得られる蓋然性があれば,男女別の賃金センサスとします。

 <裁判例>
 ・ 専門学校中退の内装工(27歳)につき,申告所得額に比べ内装業代金の振込額が倍程度あったことから平均賃金を得る蓋然性が高いとして,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
 ・ 土木建設業(37歳)につき,確定申告における事業収入ではなく,領収書に基づく収入を認めたうえで,将来的な収入増加及び経費効率化の可能性などから経費を2割として控除した額を基礎とした。
 ・ 開業3年目の医師(38歳)につき,事故年度の確定申告額は医師の死亡による営業中止という特殊事情に由来する経費が計上されているとして,事故前年の確定申告額を基礎としつつ,事故年度の売上増加(前年比40%)や,事故後閉鎖したクリニックの建物の賃貸料を斟酌し,事故前年の確定申告額に10%加算した額を基礎とした。
 ・ 前年に新規事業(ミニコミ紙制作)を始めた元新聞販売店経営者(43歳)につき,新規事業収入が通算11ヶ月で赤字だったが,直近2ヶ月は黒字で今後増加する見込みがあり,死亡前3年間の平均収入額は賃金センサス男性学歴計年齢別平均を相当程度上回っていたとして,当該賃金センサスを基礎とした。
 ・ パブスナック経営者(46歳)につき,事故前の申告所得に妻の専従者給与を加算した額を基礎とした。
 ・ 開業医(56歳)につき,直近の過去3年間の平均所得申告額から30%の事業経費を控除した額を基礎に,生活費控除30%で70歳まで認めた。
 ・ 不動産業(68歳)につき,給与所得及び年金収入について認めたほか,不動産所得についても,賃貸不動産の修理等を自ら行うなどしていたこと等を考慮してその1割を基礎とした。
 ・ 事故まで半年ほど理容店を休業していた被害者(75歳)につき,特定の顧客に理容サービスを再開し,事故直前の年賀状では理容店の名前で理容の注文を受ける旨顧客に挨拶するなどしており就労の蓋然性が認められるとし,現実収入に青色申告控除,専従者給与の90%,車減価償却費,医療法人からの給与(出張利用サービス)を加算した休業前の3年間の平均を基礎とした。
 ・ 飲食店経営(76歳)の稼働分につき,年金(老齢基礎年金)収入について認めたほか,所得税の確定申告の有無・額は不明であるが,飲食店を50年以上経営し,格別の借財はなく自活していたことから,就労可能年数を7年,生活費控除率30%とし,賃金センサス女性学歴計65歳から69歳平均の70%を基礎とした。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の年齢や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に死亡逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な算定方法で請求することが大切になります。
 保険会社から提示される金額は上記算定方法の金額を大きく下回りますので,適正な死亡逸失利益での解決実績が豊富な,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ぜひ,ご相談ください。

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