【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(38)
交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。
消極損害その2 後遺症による逸失利益(38)
9.外貌醜状等
交通事故による外傷によって,人目につくような瘢痕,線状痕,色素陥没,色素沈着による黒褐色の変色,色素脱失による白斑などが残ることがあります。
外貌醜状の後遺障害等級は,男女の区別なく,外貌に著しい醜状を残すものが7級,外貌に相当程度の醜状を残すものが9級,外貌に醜状を残すものが12級とされています。また,上肢または下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すものが14級となります。
頭部の場合,“手のひら大以上の醜状”で7級,“鶏卵大(約15.7㎠)以上の瘢痕”で12級が認められます。醜状は人目に付くものであり,髪の毛で隠れる部分は,醜状と扱われません。手のひらは被害者の大きさのものを参考にします。
顔の場合,“鶏卵大(約15.7㎠)以上の瘢痕”“5㎝以上の線上痕”“10円硬貨以上のくぼみ”で7級,“10円硬貨以上の瘢痕”“3㎝以上の線上痕”で12級が認められます。
首の場合,“鶏卵大(約15.7㎠)以上の瘢痕”で12級という等級が認められます。
手,足の場合,“露出面に手のひらの大きさの醜状”で14級という等級が認められます。
複数の醜状があった場合,原則は,1つのサイズが,上記の基準を満たさない限り,後遺症は認定されません。例外的に,同じ部位に集中している場合は合算できますが,上の基準は1つのサイズの基準ですので,合算の場合は,上の基準を大きく上回る必要があるとされています。
(1)7級の事例
・ 寿司職人(固定時31歳)の右顔面の変形・醜形(7級),味覚低下,複視,感音難聴等につき,67歳まで56%の労働能力喪失を認めた。
・ アルバイト(固定時25歳)の顔面醜状(7級)につき,左下眼瞼下垂により笑ったとき左目が開くこと,左鼻穴形態が右と異なり6cmの線状痕を残すこと,アルバイトとはいえ接客業に就いていたこと等から,67歳まで30%の労働能力喪失を認めた。
・ 海上自衛官(固定時27歳)の顔面の知覚異常を伴うため意思疎通の障害が見られる外貌醜状(7級),左下腿痛(14級)の併合7級につき,収入における不利益が現実に生じていること,自衛官退職後の再就職先への影響,外貌醜状を意思疎通の障害を主として評価するときには加齢による労働能力喪失率の減少を認める必要性は乏しいこと等から,67歳まで35%の労働能力喪失を認めた。
・ 大卒後上場会社を退職し母親経営の会社の取締役(固定時28歳)の顔面の5個の瘢痕,左眼下部の5cm以上の線状痕(7級),左足関節痛(12級)等併合6級につき,事故前に接客の業務に就いており,後継者として取引先との交渉も予想され,顔面醜状の影響は軽視できないが,その影響はしだいに緩和されると期待しうるとして,10年間35%,その後29年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ ラウンジ風飲食店,鍋料理専門店の経営者(固定時52歳)の外貌醜状(7級),神経症状(14級),眼科(12級と14級)の併合6級につき,17年間60%の労働能力喪失を認めた。
・ 主婦(固定時26歳)のオトガイ部瘢痕(7級,ひきつけによる違和感含む),歯牙損傷(14級)の併合7級につき,外貌醜状については主婦であるから大きく労働能力に影響することは考えられないが,影響が全くないとはいえず,ひきつれによる違和感があること,歯牙欠損による補綴は家事労働その他に一定の程度影響を与えること等から,67歳まで16%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(固定時58歳)の8年にわたり8回の顔面修正術等を受け,右下眼瞼,鼻孔下部及び鼻背を中心とする線状痕,鼻背を中心とする長さ5cm以上の線状痕(7級),味覚障害等の併合6級につき,転職を余儀なくされており,外貌醜状が労働能力に与える程度は相当深刻であるとし,67歳まで30%の労働能力喪失を認めた。
・ 大学生(固定時24歳)の頭部外傷に伴う精神神経障害等(7級),右同名半盲(9級),醜状障害(7級)の併合5級につき,左前額部の10円玉硬貨大以上の組織陥没は人目につき,年齢等からすれば稼働に対する一層の制約が生じ,収入が減少することは十分に考えられることから,67歳まで79%の労働能力喪失を認めた。
・ 高校生(事故時17歳)の左眉周辺の線状痕及び下顎部の瘢痕(7級),歯牙障害(13級)の併合6級につき,7級の外貌醜状としては比較的軽度であり,化粧品販売会社に美容部員として採用され配置や労働条件等において特段の不利益を被ったことが窺われないが,後遺障害が生涯にわたって残存することが見込まれ,就職活動で具体的に不利益な影響を生じた可能性も小さいとはいえず,それが生涯における労働による利得に波及する可能性も否定できないことから,46年間12%の労働能力喪失を認めた。
・ 高校生(固定時19歳)の顔面醜状痕(7級),利き手である右手の神経症状(12級)の併合6級につき,現実の勤務への具体的な支障,就労の不安定性,今後の転職等で受ける可能性のある不利益等を考慮し,46年間25%の労働能力喪失を認めた。
・ 一家の支柱である介護士(固定時44歳)の外貌醜状(7級),神経症状(14級)の併合7級につき,事故後の減収はないが,前額部の醜状痕については現在でも終始人目を気にし,労働効率などに悪影響が及んでおり,就労に対する後遺障害の悪影響を最小限に抑えるためにヒビ相当程度の努力を重ねていること,今後転職する場合には後遺障害による不利益の発生が考えられることなどから,67歳まで20%の労働能力喪失を認めた。
・ 介護職員(固定時54歳)の前額部左の瘢痕と知覚違和感(7級)につき,障害者やその家族等と円満な関係を構築し,円滑な意思疎通を実現する上で支障が生じうるというべきではあるが,減収がなく,化粧や髪型等によってある程度目立たなくすることができることに照らし,67歳まで10%の労働能力喪失を認めた。
・ 大学生(固定時23歳)の顔面部の線状痕(7級),歯牙障害(12級)の併合6級につき,コミュニケーション能力に相当な支障が生じていることや被害者の性別及び年齢を考慮し,44年間25%の労働能力喪失を認めた。
・ 法律事務所勤務(固定時30歳)の左下肢瘢痕(知覚異常含む)(7級相当),左足関節機能障害(12級)の併合6級につき,デグロービング損傷による左下肢の醜状障害は,単なる醜状障害にとどまらず,筋肉・血管・脂肪・神経などの軟部組織が大幅に失われたことにより,筋力低下などの左下肢の機能を障害し,頑固な神経症状を残しており,左下肢の機能障害は,一般的な事務職である弁護士補助の仕事にも支障が生じるほどであって,左足関節の機能障害(12級)を超える支障が生じており,スカートが制服となっている下肢を露出する仕事に就く際に制約がないとはいえないとして,37年間25%の労働能力喪失を認めた。
愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
醜状は時間の経過とともに薄れていくため,醜状障害の後遺症申請は,事故後6ヶ月で早急に行うことが重要になります。また,医療技術の進歩によって,傷跡を目立たなくすることは可能になってきており,醜状障害を理由とする後遺症が認定基準は厳しくなりつつあります。(1)事故後6ヶ月で早急に後遺症申請をするのか,または(2)保険会社の治療費対応で形成手術を行って後遺症申請は行わないという選択をするのか,弁護士法人しまかぜ法律事務所では,被害者の傷跡を確認し,もっとも最適な方法をアドバイスしていきます。
逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。