【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(39)

2022-10-11

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(39)
9.外貌醜状等
(2)9級の事例
・ 空港ラウンジで接客業に従事する契約社員(固定時33歳)の化粧を施しても正面から見てそれと分かる右頬から右耳殻に至る長さ9cmの線状痕等(9級)につき,事故前収入を基礎に,67歳まで35%の労働能力喪失を認めた。
・ 地方公共団体の嘱託職員等としてカウンセリング業務に従事していた兼業主婦(37歳)の前額中央やや右から左眼瞼部にかけての線長約5.6センチメートルの線状痕に左前額部から左眉毛上部にかけての線約1.6センチメートルの線状痕がY字型に繋がる縫合創痍(9号)につき,内容・部位・程度に加え,性別・職種・心理的影響に照らし,事故前収入を基礎に,67歳まで25%の労働能力喪失を認めた。

(3)12級の事例
・ 会社員(固定時29歳)の顔面醜状(12級),下顎骨折に伴う左顎痛(12級),7歯欠損(12級)の併合11級につき,外貌醜状により接客や対人間関係の生涯による就労への悪影響があるとして,21年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 女児(事故時2歳)の顔面傷跡(12級)につき,賃金センサス全労働者全年齢平均を基礎に,18歳から67歳まで14%の労働能力喪失を認めた。
・ 専門学校を卒業して各種資格を有し,ダイビングインストラクターを目指すアルバイト(固定時21歳)の右下肢醜状(12級),左下肢醜状(14級)の併合12級,軽度右下肢機能障害(非該当)につき,機能障害により労働能力が相当程度喪失したこと,両下肢の醜状がその職業選択を狭め,少なくともダイビングインストラクターとなる可能性を閉ざしたことから,10年間15%,次の10年間10%,その後10年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ 歯科衛生士(固定時28歳)の左下腿リンパ浮腫(7級),左右の下肢瘢痕拘縮(12級)の併合6級につき,両下肢の瘢痕の大きさやそのために生じる精神的負担及び仕事に対する萎縮的効果,未婚女性であることを考慮し,瘢痕は労働能力に相応するとして,39年間67%の労働能力喪失を認めた。
・ 英会話教室運営の主婦(固定時47歳)の顔面部醜状障害(12級),頸部痛・背部痛・左手にかけてのしびれ感等(14級),腰痛・腰の抜ける感じ(14級),PTSD(12級)の併合11級につき,20年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 小学生(固定時12歳)の顔面線状痕・陥没痕(12級)につき,今後の進路ないし職業の選択・就業等において不利益な扱いを受ける蓋然性は否定できず,醜状痕を気にして消極的になる可能性も考慮し,賃金センサス全労働者全年齢平均を基礎に,49年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ 大学生(固定時19歳)の口唇部の10円銅貨大以上の瘢痕(12級)につき,被害者は保育士になることを希望しているが,子供に接する仕事であり,瘢痕によりその就職が制限される蓋然性があるとし,事故後のコンビニ等でのアルバイトはこれを否定するものでなく,大学卒業から就職等の制限の蓋然性が高い40歳まで14%の労働能力喪失を認め,それ以降の不利益は慰謝料で考慮するとした。
・ 介護従事者(固定時45歳)の眉間に人目につく3センチメートル以上の線状痕(12級),頚項部痛,胸背部痛及び腰痛(14級)の併合12級につき,介護の仕事は日常的に他人と接し,円滑な人間関係の形成等が必要とされること,年齢等に照らし今後転職する可能性も否定できないこと等から,外貌醜状が労働能力に影響をもたらすとして,67歳まで10%の労働能力喪失を認めた。
・ 兼業主婦(事故時52歳)の右下腿打撲皮下血腫等による右下肢外傷後瘢痕(12級相当)につき,外貌醜状の後遺障害は否定し,外傷に伴う同部位の皮下脂肪層,真皮組織の欠損により脛骨近傍のわずかな刺激に対する痛み等が生じていることから,右下肢に痛み等の神経症状の残存を認め,家事労働に一定の支障が生じているものとし,平均余命の2分の1の17年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ アパレルショップ店員兼主婦(固定時18歳)の顔面神経麻痺による口唇閉鎖不全,顔面部及び頚部の瘢痕(12級),左下口唇知覚異常及び知覚鈍麻(14級)の併合12級につき,対人関係に消極的となり,店員に一度復職したものの接客業務に支障を生じて退職しており,接客業等への就労可能性が一定程度制限されているほか,家事労働にも心理的負担を感じるという意味で間接的な影響が生じており,顔面神経麻痺や頚部の瘢痕は将来回復する見込みは乏しいとして,49年間5%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 醜状は時間の経過とともに薄れていくため,醜状障害の後遺症申請は,事故後6ヶ月で早急に行うことが重要になります。また,医療技術の進歩によって,傷跡を目立たなくすることは可能になってきており,醜状障害を理由とする後遺症が認定基準は厳しくなりつつあります。(1)事故後6ヶ月で早急に後遺症申請をするのか,または(2)保険会社の治療費対応で形成手術を行って後遺症申請は行わないという選択をするのか,弁護士法人しまかぜ法律事務所では,被害者の傷跡を確認し,もっとも最適な方法をアドバイスしていきます。
 逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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