【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(27)

2022-06-24

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(27)
8.神経系統の機能又は精神の障害
(5)PTSDその他非器質性精神障害
   非器質性精神障害とは,脳の器質的損傷を伴わない精神障害のことです。非器質性精神障害にあたる病名としては,PTSDのほか,うつ病,外傷性神経症,不安神経症,強迫神経症,恐怖症,心気神経症,神経性無食症などの神経症(ノイローゼ)や統合失調症など,さまざまです。
   非器質性精神障害は,交通事故に直接関連する身体的外傷や心的外傷などの要因に加えて,被害者個人の環境的要因や固体測要因などが複雑に関連しあうため,因果関係の認定が難しいという問題があります。
   また,非器質性精神障害は,ある程度症状が続いても,その後に治癒する可能性があり,症状固定の判断が難しいという問題もあります。一般的な後遺障害では6ヶ月で症状固定しますが,非器質性精神障害は事故受傷後1年ほどをその判断期間としており,他の障害よりも長い期間,症状固定の判断に掛けなければなりません。
   非器質性精神障害が後遺障害として認定されるためには,精神科などの専門医による診療を受け,治療と投薬がなされ,十分な治療期間があったにもかかわらず,具体的な残存症状や能力の低下が見られ,それらに対する回復の見込みに関する判断(症状固定)が適切に行われていることが重要なポイントになります。
   認定される等級は,治療の経過・時間,身体的障害の状況,事故外要因,予後状況等を総合的に判断して,第9級,第12級,第14級の3段階になります。

 ① 認定例
  ・ 小学生(事故時11歳)につき,具体的症状等を検討のうえPTSDとは認定せず,特定不能の不安障害9級10号とし,身体能力や知的能力の点では就労に制限はないが,単独で外出が困難で就業できる職種が相当限定限定されるとして,18歳から10年間35%の労働能力喪失を認めた。
  ・ 喫茶店経営者(固定時49歳)につき,PTSDを認定せず,ヒステリー症状,混合性解離性(転換性)障害2級3号として,67歳まで100%の労働能力喪失を認めた。
  ・ 脳神経外科医の抑うつ気分,意欲の減退,食欲不振,不眠12級13号につき,手指の機能・感覚の異常等を精査するため入院する必要があり,これによって休職し,復職への不安等から抑うつ状態となり,症状が悪化しうつ病になった経緯等から本件事故とうつ病発症との間に相当因果関係を認め,素因減額をせず,10年間14%の労働能力喪失を認めた。
  ・ 主婦(固定時47歳)の非器質性精神障害につき,症状は14級を上回るものともいえるが,事故後のストレス因子に対する過剰反応等から相当因果関係ある後遺障害の程度としては14級とした上で,症状消退の蓋然性の有無は判然としないとして20年間5%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 非器質性精神障害は,被害者の精神的ショックの大きさに対して,後遺障害が認定されない,もしくは低い等級で認定されることも多くあります。適正な等級が認められるためには,早めに精神科医の診察を受けるとともに,交通事故による後遺障害に強い弁護士に相談することが大切です。

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