【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(13)

2022-02-14

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(13)
3.減収はないが逸失利益を認めた事例
(1)事故時に就労していた者
  ② 公務員以外の給与所得者
ア 精神・神経症状
・ 歯科医院勤務予定者(固定時23歳)の第5胸随以下完全麻痺,両下肢自動運動不能,泌尿器官機能麻痺等1級につき,減収がないのは被害者の特別な努力によるためなどとして,44年間100%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(固定時28歳)の脳挫傷後の右上肢不全麻痺等10級につき,利き腕の右上肢不全麻痺は事務職という仕事の内容からすると直接仕事の効率に影響するはずのものであり,努力によって減収を免れているに過ぎないとして,39年間27%の労働能力喪失を認めた。
・ 新聞記者(固定時27歳)の脊髄損傷による完全対麻痺等1級3号につき,復職し内勤に配属されているが,勤務継続は周囲の恩恵的配慮と本人の多大な努力によるとして,事故前収入,勤務先の給与制度や勤務先作成の年収資産等から基礎収入を算定し,67歳まで90%の労働能力喪失を認めた。
・ 新聞社即売部長(固定時55歳)の左鎖骨・尺骨骨折,左下腿骨・左脛骨骨折後の左前腕の疼痛12級につき,1時間程座っていると左足の関節部分が動きにくくなるため会議等で不便や困難を感じ,左手で鞄を持てない等しており,事故後の収入に変動がほとんどないのは被害者の努力によるとして,事故前年収を基礎に,10年間14%の労働能力喪失を認めた。
・ 消化器外科医(固定時38歳)の腰痛・左臀部痛・左大腿後部痛につき,事故後1年5ヶ月間は減収がなく,また,現在の収入は事故時よりも若干増えているが,後遺障害残存により減収に伴う転職をし,経験を積んでいた消化器外科から形成外科に転向したことによる経済的不利益も生じていること等から,10年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(固定時29歳)の第4胸随以下完全麻痺,知覚喪失,高次脳機能障害別表第1の1級1号につき,事故前と遜色のない給与所得を得られているのは,被害者の多大な努力や稼働先の理解・配慮を得られていることによるとして,事故当時同世代の大卒男子の平均年収に劣らない収入を得ていたことから,賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎に,38年間85%の労働能力喪失を認めた。
・ 港湾通信業務従事者(固定時27歳)の神経・精神障害,右下肢の欠損,右股関節の機能障害等併合2級につき,退院後復職して事故前とほとんど変わらない額の給与収入を得ているが,勤務先の好意で勤務を継続しているとして,当初の5年を除いて,35年間100%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(事故時41歳)の頚部痛,上肢の疼痛等,腰部痛併合12級につき,減収はないが,頚部の可動域制限により自動車運転ができなくなったり電卓やコンピュータの長時間使用が困難となるなど仕事に対する影響もあるとして,事故前年の年収を基礎に,10年間14%の労働能力喪失を認めた。
・ 高所作業の業務を伴う会社員(固定時25歳)の左肩甲骨骨折後の左肩痛14級につき,固定後の職種の変更,減収はないが,疼痛や軽度の可動域制限により作業困難,作業能率の低下が認められるほか,症状固定から4年経過しても疼痛にさほどの改善は見られないことなどから,10年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ 製造業従事(固定時27歳)の高次脳機能障害9級につき,事故後に減収が生じていないのは,勤務先の配慮や本人の努力によるものであり,将来の昇進や再就職において不利益な扱いを受ける可能性を否定できないとして,賃金センサス男性学歴計平均を基礎に,40年間35%の労働能力喪失を認めた。
・ 工場の製造課長(固定時54歳)の右肩関節の機能障害,右手のしびれ症状併合10級につき,部下と現場で機械操作をする際や通勤・日常生活等に支障が生じており,減収がないのは休日出勤を増やす等本人の努力によるものであり,将来的には昇給等への影響も考えられることから,65歳定年までは事故前年収入を,定年後3年間は賃金センサス男性学歴計65~69歳平均を基礎に,14年間27%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,認められるか認められないかで賠償額が大きく異なります。
 減収がない場合の逸失利益については,職種や仕事内容等によって請求できるか変わってきますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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