【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(11)

2022-01-24

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(11)
3.減収はないが逸失利益を認めた事例
  逸失利益とは,交通事故に遭わなければ得られるはずであった収入など,交通事故によって失われた利益のことです。
後遺障害認定の時点ですでに減収が発生しているような場合には,将来的にも減収が続くと予想できますが,公務員や事務職等,就労先の配慮や仕事の内容によっては,後遺障害が残っても実際には減収が生じない場合もあります。
このように,後遺障害は残ったものの,実際に減収はされていないような場合は,保険会社においても逸失利益を認めない傾向にあり,争いとなることが多くあります。
裁判所では,後遺障害がなければ得られたであろうと予想される収入から,後遺障害がある状態で実際に得られた収入を差し引いた金額が損害賠償の対象になるとしており,減収が実際に発生していない場合には,そこに「特段の事情」が認められないかぎり逸失利益を請求することはできないとしています。
  では,どのような場合が「特段の事情」となり,減収がなくても逸失利益が認められるのでしょうか。

(1)事故時に就労していた者
  ① 公務員
ア 精神・神経症状
・ 復職し収入減少の少ない地方公務員(固定時29歳),1級3号につき,将来の昇進,昇級,転職等につき不利益を受ける蓋然性があることを理由として,38年間70%の労働能力喪失を認めた。
・ 公立高校教師(固定時42歳),めまい,耳鳴り,嘔気,疼痛等14級につき,収入の減少はないが,入試問題を解く際にめまい等が現れ集中力や思考力が低下することがあるため,従来より時間がかかるなど努力を要しているとして,6年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ 復職し収入減少の少ない地方公務員(固定時23歳),高次脳機能障害9級につき,事故前の収入額等から賃金センサス女性学歴計全年齢平均を基礎とし,勤務先の同僚等による援助,本人の特別の努力,将来的に昇進,昇級等に影響を与える蓋然性が高いことなどから,44年間30%の労働能力喪失を認めた。
・ 国税調査官(固定時31歳),脊柱奇形11級につき,事故後も減収なく普通昇給も果たしているのは努力によるところも多く,将来の昇級や昇格に影響出る可能性は否定できないこと,仕事の能力低下が身体の機能的障害ではなく腰痛の影響による集中力の低下にあること等から,36年間14%の労働能力喪失を認めた。
・ 国家公務員(固定時48歳),左膝疼痛,運動時痛等12級につき,事故後復職し減収はないが,工事監督のための外回りの業務や立ち仕事等に少なからず支障が生じていることから,10%の労働能力喪失を認めた。また,将来民間企業に就職することが予想されることから,定年である60歳ではなく67歳までの19年間を認めた。
・ 市営バスの運転手,左手関節,左母指基節部痛14級につき,減収はないが,バスの運転手として左手でシフトレバー操作やハンドル操作を円滑に行うこと,釣銭機に故障が生じた際に左手で釣銭機を円滑に操作すること等に苦労し,努力や工夫によって,これらを克服していることが認められるとし,事故前年年収を基礎に10年間5%の労働能力喪失を認めた。
・ 公立高校英語教師(固定時46歳),脾臓摘出,左下腿部痛,開放骨折部知覚過敏等,左下肢醜状痕につき,仕事に支障を生じており,人事評価ひいては昇級や昇格に影響することが容易に予測され,事故前と比較して減収がないとしても逸失利益を否定できないとして,21年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 地方公務員(固定時43歳)の高次脳機能障害,左片麻痺につき,復職し職場の上司及び同僚の配慮を受けて重大な支障は生じていないこと,基本給は減少していないが残業に伴う収入を得ていないこと,現在の勤務先を退職後の再就職の可能性は低いことから,事故前年年収を基礎に67歳まで60%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,認められるか認められないかで賠償額が大きく異なります。
 減収がない場合の逸失利益については,職種や仕事内容等によって請求できるか変わってきますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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