【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(29)

2022-07-11

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(29)
8.神経系統の機能又は精神の障害
(6)RSD(CRPS)等の疼痛傷害
   交通事故で受傷すると,交感神経が作用して(高ぶって),血管が収縮して止血します。傷が治ると交感神経の作用(高ぶり)が落ち着くのですが,交感神経の異常によって,高ぶりが落ち着かないことがあります。交感神経の作用(高ぶり)が続くと,血管収縮により,手,足に栄養が届かず,老廃物が溜まる一方になって,手,足に痛み,腫れ,皮膚の変化,骨の萎縮,発熱の異常が生じます。また,ギプス固定で手,足を長期固定されたことが原因で発症することもあります。
   このような傷病名を,RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼ぶようになりましたが,症状は必ずしも交感神経の異常のみを原因とするのでないため(シナプス結合異常など),その後CRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼ばれるようになりました。そして,CRPSは神経損傷の有無により,タイプⅠとⅡに分類されることになり,タイプⅠ(神経損傷が不明確)で代表的なものがRSD,タイプⅡ(神経損傷あり)で代表的なものがカウザルギーです。
後遺障害の等級としては,7級,9級,12級に認定されますが,そもそもCRPS(RSD,カウザルギー)と認定されることが最初のポイントになります。
   カウザルギーについては,神経損傷が認められることが必要です。RSDは神経損傷がないため,自賠責保険では,関節拘縮,骨萎縮,皮膚の変化(皮膚温の変化,皮膚の萎縮)が,障害のある側と正常な側を比較して明らかになっていることを必要としています。

  ① 認定例
   ・ 夫の開業する歯科医勤務(固定時53歳)のRSDにともなう神経症状(12級),左足関節機能障害(12級),肋骨骨折後の疼痛(14級),歯牙折損(14級)の併合11級につき,RSDにかかり易い心因的要素の寄与を理由に減額すべきとの加害者側の主張を斥けて,14年間20%の労働能力喪失を認めた。
   ・ 大学教授(固定時48歳)の頭・頸部・腰部・右肩・右下肢・右手等の激しい疼痛や関節可動域制限,右上下肢筋力低下,右上肢知覚異常,右優位座骨神経痛,右下肢拳上制限等(移動に車椅子を使用)につき,皮膚の変化や骨萎縮はみられずRSDであるとの確定的な認定は困難であるが,器質的疾患による神経系統の障害として9級に相当するとして,19年間35%の労働能力喪失を認めた。
   ・ アルバイト(固定時27歳)の頚部挫傷から左上肢RSDを発症し,1年半後の症状固定後に左下肢にもRSDを発症した場合に,左上肢は7級4号,左下肢の独立歩行困難も7級4号で併合5級とし,将来改善されることは困難として,50年間79%の労働能力喪失を認めた。
   ・ 主婦(固定時23歳)の皮膚変化は認められるものの関節拘縮も骨萎縮も認められない手足の痛みやしびれにつき,臨床用の判定指標を充たし高い確率でCRPSと診断できるとの医学的意見もあることから,客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠法施行令上のRSD認定には至らなくても,他覚的所見を伴う「頑固な神経症状を残すもの」(12級)には該当するとして,44年間14%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 CRPS(RSD,カウザルギー)は,猛烈な痛みの伴う難治性の後遺症です。また慢性化することで精神的にも追い込まれることは少なくありません。
 逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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