【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(14)

2022-02-18

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(14)
3.減収はないが逸失利益を認めた事例
(1)事故時に就労していた者
  ② 公務員以外の給与所得者
イ 上肢・下肢の機能障害等
・ 洋品販売店勤務(固定時23歳)の左大腿切断4級相当につき,店長から店員に降格していること,接客業で立ちづめの仕事であることから考えると,給料の維持・増加は本人の不断の努力及び経営者の温情によるところが大であるなどとして,44年間92%の労働能力喪失を認めた。
・ 整骨院勤務(固定時33歳)の左肩関節機能障害等併合9級につき,就労の上で相当の不便を被っており,努力によって減収を免れているとして,34年間27%の労働能力喪失を認めた。
・ バイク便勤務(35歳)の左肘関節障害,神経障害併合11級につき,肉体労働は困難となり,出版社に正社員として就職し事故前より増収する見込みではあるが,これは幸運にも就職先が見つかったことや本人の努力の結果であるとして,67歳まで14%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(固定時40歳)の右足関節可動域制限,右足母趾可動域制限,骨盤骨変形,右下肢の外貌醜状併合10級につき,事故後の減収はないが,朝早く出勤するなど特段の努力によるものであり,入院のため昇格試験を受験できず実質的には減収ともいえるとして,27年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 信用金庫営業係長(固定時40歳)の右下腿部疼痛等,右足関節可動域制限併合9級につき,所得が減少していないのは特別の努力によるもので,役職が内勤の主事に異動することにより将来の昇給・昇進等不利益を受けるおそれがあるとして,当初10年間は35%,以降67歳までは27%の労働能力喪失を認めた。
・ 上場企業会社員(固定時37歳)の右足関節機能障害,右膝関節機能障害,右足趾機能障害,右下肢短縮,骨盤骨変形等併合5級につき,事故後収入は増加しているが,右下肢の疼痛等に耐えて長時間の残業をしたり自宅で毎日2時間以上掛けて体調管理する等の格段の努力や周囲の配慮が大きく寄与していること,システム運用管理作業において,現場でしゃがんだり重い物を運べないため,今後の昇進・転職の際に不利益を被る可能性があることから,30年間52%の労働能力喪失を認めた。
・ 銀行員(固定時35歳)の右足関節の運動障害12級につき,減収はないが,それは本人の努力によること,今後人事異動先が限られることも否定できないこと,症状悪化による関節固定術施行の可能性もあり,その場合,歩行が今以上に困難になり業務範囲が更に限定されるために,銀行での昇進,昇給等に不利益を被る可能性があるとして,32年間8%の労働能力喪失を認めた。
・ 准看護師(固定時45歳)の左足関節機能障害,左足1~5趾機能障害併合10級につき,事故後救急病棟の脳神経外科からクリニックの老人介護の勤務になり,収入は事故前から増加しているが,自己の努力と周囲の援助で仕事に従事しており,定年の60歳まで現在の地位と収入が確保される確実な保証はないうえ,定年後の再雇用等の可能性や後遺障害のある者の再就職には支障があること等から,事故前の年収を基礎に定年までは14%,以降67歳までは27%の労働能力喪失を認めた。
・ 宅配業務従事者(固定時38歳)の下肢偽関節,下肢短縮8級につき,妻のマッサージを受けつつ業務に従事し,荷物の運搬を伴わない物販で成績を伸ばす努力を継続するとともに,勤務先が少ない労力で高い歩合給が得られる特定の取引先を担当させる特別の配慮をすることでようやく事故前の収入の水準が維持されており,かかる特別の努力や配慮が就労可能期間を通じて継続するとは考え難いとして,事故前年の収入を基礎に,29年間45%の労働能力喪失を認めた。
・ 図書館非常勤職員(固定時38歳)の右股関節障害等併合11級につき,事故前の仕事に復帰して変わらない収入を得ていることは本人の大きな努力があると推認でき,仕事に復帰した4年後には転職を余儀なくされており,後遺障害の内容から就業できる仕事が限定される等かなりの困難が予想されることから,事故前年の収入を基礎に,29年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 日雇労働者(とび職・固定時32歳)の左手関節機能障害等併合11級につき,事故後に会社従業員として雇用された以降は事故前収入を上回っているが,本人の努力や周囲の配慮による部分も大きく,事故時30歳は若年とは言い難いが昇級や転職等による収入増加の可能性がある年齢で,事故がなければ事故後の現実収入以上を得る可能性もなかったとはいえないとして,事故直近の実収入を基礎に,35年間20%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(固定時21歳)の左手関節の可動域制限等10級につき,具体的に減収を生じていないが,就労に種々の支障を生じており,残業などで収入を維持しているとしたうえで,賃金センサス男性高卒全年齢平均を基礎に,症状固定後20年間は25%,その後は15%の労働能力喪失を認めた。
・ 鉄道会社運転士(固定時45歳)の右手関節機能障害,右足関節機能障害,右母趾の関節機能障害,左膝痛併合10級につき,電車のハンドルが握り込み難い等の制約を受けており,減収がないのは本人の努力により事故後も電車の運転の技能を活用できていることによるとして,事故前年の年収を基礎とし,定年見込み時期までは18%,以降67歳までは27%の労働能力喪失を認めた。
・ 現金輸送の警備業務従事の会社員(固定時22歳)の左膝関節動揺,左眼上瘢痕併合11級につき,事故前後で減収はないが,左膝関節動揺の後遺障害が日常的に重い荷物を運ぶ等,膝への負担が想定される業務に相当の不便を生じさせていることは容易に推察されるにもかかわらず,被害者が業務を継続しているのは,格別の努力によるものであるとして,賃金センサス男性高卒全年齢平均を基礎に,67歳まで14%の労働能力喪失を認めた。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,認められるか認められないかで賠償額が大きく異なります。
 減収がない場合の逸失利益については,職種や仕事内容等によって請求できるか変わってきますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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