【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(41)

2022-10-24

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(41)
9.外貌醜状等
(6)男性の事例
外貌醜状の後遺障害等級は,以前は,女子につき,外貌に著しい醜状を残すものが7級,外貌に醜状を残すものが12級,男子につき,外貌に著しい醜状を残すものが12級,外貌に醜状を残すものが14級とされていました。
しかし,平成22年6月10日以降に発生した事故については,男女の区別なく,外貌に著しい醜状を残すものが7級,外貌に相当程度の醜状を残すものが9級,外貌に醜状を残すものが12級なっています。

 ・ 男児(事故時5歳)の顔面醜状(12級),歯牙障害(12級)の併合11級につき,18歳から67歳まで10%の労働能力喪失を認めた(平成6年)。
 ・ 予備校生(固定時29歳)の頸部,腰部の神経症状(各14級),顔面醜状(12級)の併合12級につき,男性といえども醜状痕によって希望する仕事への就職が制限されたり,就職しても営業成績があがらなかったり,仕事の能率や意欲を低下させて所得に影響を与えることは十分に考えられるとして,症状固定から10年間10%,その後10年間5%の労働能力喪失を認めた(平成13年)。
 ・ 被害者(固定時23歳)の頭部3ヵ所の線状瘢痕(12級),歯牙障害(13級)の併合11級につき,対人面接が重要な職種によっては就労の機会を制限され,労働の意欲を低下させるとして,67歳まで5%の労働能力喪失を認めた(平成14年)。
 ・ 作業療法士(固定時29歳)の顔面おとがい部長さ5cm以上の線状痕(12級),障害歯10歯喪失又は著しい欠損(11級)の併合10級につき,事故後の年収が事故時を上回っているが,事故の年の年収は3月末以降に過ぎないこと,事故当時の勤務先は勤務年数に応じて昇給する賃金体系であること,職場への遠慮等から無理をして職責をこなしていたことなどから,労働能力喪失がないとはいえないとし,外貌醜状による労働能力の喪失も認められるとして,67歳まで15%の労働能力喪失を認めた(事故日平成16年)。
 ・ 高校生(固定時19歳)の右下腿部前面醜状(14級),右眼下部10円銅貨大以上瘢痕(14級)の併合14級につき,対人折衝が必要な業務に従事しており,顔面に傷があることを気に病み,業務に集中できず,仕事の能率や意欲を低下させることは十分に考えられるほか,将来的には営業部門等にも配属される可能性もあり,労働能力喪失の期間を制限すべきでないとして,48年間5%の労働能力喪失を認めた(事故日平成20年)。
 ・ 会社員(固定時55歳)の肘の屈曲,肩の拳上・外転の障害(12級),左頬部線状痕(12級)の併合11級につき,定年が5年以内に迫っており,定年後の再雇用や新たな就職の問題も生じるところ,その際には外貌の著しい醜状も就職に不利益を生じる蓋然性が高く,労働能力を低下させる要素になると認められることから,定年までの5年間は事故の翌月からの年俸,それ以降の8年間については再雇用されることを前提とした金額を基礎に,それぞれ20%の労働能力喪失を認めた(事故日平成21年)。
 ・ 専門学校生(固定時23歳)の外貌醜状(7級),右眼視力障害(8級),右まぶた運動障害(12級)の併合5級につき,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎に,67歳まで79%の労働能力喪失を認めた(平成24年)。
 ・ 専門学校卒の給与所得者(固定時26歳)の高次脳機能障害(5級),醜状障害(旧基準12級),歯牙欠損(12級)の併合4級につき,醜状障害は事故後に改正された7級として併合3級とし,賃金センサス男性高専・短大卒全年齢平均を基礎に,67歳まで100%の労働能力喪失を認めた(平成25年)。
 ・ 交通誘導警備員(固定時66歳)の頭蓋骨欠損による左額部から左頭部の組織陥没(12級)につき,事故前に人工骨を使用した頭蓋骨形成術を受けており,事故後に髄液漏を発症したため頭蓋骨欠損のまま症状固定となり,肉体労働は極めて危険で,営業職や事務職につくことも困難であり,単に外貌醜状にとどまらず就労に大きな制約を受けているとして10級に相当するとし,6年間27%の労働能力喪失を認めた上で,既往症につき30%の訴因減額をした(事故日平成22年5月)。
 ・ 会社員(固定時48歳)の高次脳機能障害(7級),歯牙障害(10級),嗅覚脱失(12級),顔面部の複数の線状痕(12級)の併合6級につき,どうしても人目を気にしてしまい,気持ちが消極的になることから,外貌醜状も労働能力に影響を与えているとして,67歳まで67%の労働能力喪失を認めた(事故日平成21年)。
 ・ 自動車運転手(固定時41歳)の口唇部挫創後瘢痕(9級)につき,口唇部に残存している長さ5cm以上の線状痕であり,人目に付く程度のものであること,初対面に近い顧客との折衝に消極的になっていること,車内の評判が落ちて将来の昇進や転職に影響したりする可能性が否定できないこと等から,67歳まで35%の労働能力喪失を認めた(事故日平成23年)。
 ・ 舞台俳優・衣料品店準社員(固定時25歳)の外貌醜状(12級)につき,音楽大学卒業後,舞台俳優を目指して現にダンサーとして舞台活動を行っているところ,舞台活動においては外見の均整も重要な要素であることは否定し難い等として,67歳まで5%の労働能力喪失を認めた(平成28年)。
 ・ 配達業務等に従事する会社員(固定時37歳)の左眼下部1箇所,左頬2箇所の線状痕(12級)につき,従前は営業業務を行っていたこともあったが,転職活動においては,配達業務等不特定多数の者と接する機会が少ない業種かどうかを確認し,接客や営業の仕事は避けるようになっていること等から,67歳まで7%の労働能力喪失を認めた(令和2年)。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 醜状は時間の経過とともに薄れていくため,醜状障害の後遺症申請は,事故後6ヶ月で早急に行うことが重要になります。また,医療技術の進歩によって,傷跡を目立たなくすることは可能になってきており,醜状障害を理由とする後遺症が認定基準は厳しくなりつつあります。(1)事故後6ヶ月で早急に後遺症申請をするのか,または(2)保険会社の治療費対応で形成手術を行って後遺症申請は行わないという選択をするのか,弁護士法人しまかぜ法律事務所では,被害者の傷跡を確認し,もっとも最適な方法をアドバイスしていきます。
 逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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