【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(24)
交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。
消極損害その2 後遺症による逸失利益(24)
8.神経系統の機能又は精神の障害
(2)高次脳機能障害
② 自賠責保険より高い等級や喪失率が認定された事例
・ 中学生(固定時16歳,自賠責は5級)につき,少なくとも知的産業への就労はまず不可能であり,軽微な非知的産業への就労は全く不可能ではないが,記憶や注意力,新しいことを学習する能力,障害の自己認識,円滑な対人関係維持能力の著しい障害による社会生活への不適応性や,集団生活での監視の必要性等に照らし,一般就労が困難として3級3号に該当するとした。
・ 大学生(固定時21歳,自賠責は3級)につき,身体動作的には生命維持に必要な身辺動作についてほぼ自立しており,自宅内において常に家族等の声かけや看視を欠かすことができないとまではいえないものの,日常の生活範囲は自宅内にほぼ限定されており外出に際しては看視が必要であるとして,高次脳機能障害は2級とし,両眼視野狭窄,左足指用廃,右下肢醜状とで併合1級とした。
・ 会社員(固定時31歳,自賠責は高次脳機能障害7級,右動眼神経麻痺等併合11級相当,併合6級)につき,記憶力及び記銘力の障害の程度が強いことから,6級と5級のほぼ中間値75%の労働能力喪失を認めた。
・ トラック運転手(固定時43歳,自賠責は5級)につき,日常生活動作,意思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する持続性・持久性,社会行動能力のほか,労災1級,精神障害者保健福祉手帳1級の各認定も考慮して,高次脳機能障害は3級とし,100%の労働能力喪失を認めた。
・ 大学院卒の有限会社代表取締役(固定時31歳,自賠責は非該当)につき,記憶障害,学習障害,注意障害,遂行機能障害,社会行動能力の低下,持続力の低下,知能低下の症状をびまん性軸索損傷に基づく高次脳機能障害の症状と認め,5級又は3級に相当するとして,左顔面から頸部にかけての不随運動,講音障害・講語障害,左上肢から頸部の筋萎縮の亢進と異常姿勢及び運動障害等のジストニアの症状と併せて併合2級相当として,100%の労働能力喪失を認めた。
・ 主婦(固定時33歳,自賠責は非該当)につき,現在の生活状況に照らして労働能力に影響を与える主たる症状は易疲労性であるが,全く家事労働に従事することができないわけではなく,掃除,洗濯,食事につき,一定限度従事することができていることから67%の労働能力喪失を認めた。
・ 会社員(固定時50歳,自賠責は非該当)につき,事故直後,軽度の意識障害があり,MRI画像によれば脳の病変や脳挫傷を疑う所見があり,物忘れ症状や新しいことの学習障害,複数の作業を並行処理する能力,集中力等の低下,易怒性,多弁といった性格上の変化がみられることから,高次脳機能障害7級と認定した。
・ プロゴルファーのキャディー(固定時33歳,自賠責は非該当)につき,事故直後の強い意識障害や画像所見における異常所見はないが,軽度外傷性脳損傷は遅発性に現れることもあり必ず画像所見に異常が見られるということでもないこと等から,事故により脳幹部に損傷を来した事実を否定することはできないとして9級にあたるとして,67歳まで35%の労働能力喪失を認め,心因的要因の影響から3割の訴因減額を行った。
・ 美容室勤務(固定時31歳,自賠責は非該当)につき,脳損傷について,画像所見から直ちにその旨の所見は認められないが,頭部に衝撃を受けており,事故直後の記憶がないこと及び事故直後の意識消失があり,意識障害の程度は低いが入院中一時記憶障害があり,事故後に隣人とトラブルになって傷害を負わせ措置入院されるなど精神症状が現れていることを総合し,高次脳機能障害7級と認定した。
・ 大工(固定時30歳,自賠責は非該当)につき,受傷直後の意識障害は軽度で持続時間も短いが,当初から記憶障害等の症状が現れており,びまん性脳損傷ないし軸索損傷を示唆する画像所見や認知能力が標準を下回ることを示す神経心理学的検査が存在し,複数の医師が高次脳機能障害との見解を示していることから,脳損傷を原因とする高次脳機能障害が残存したと認め,5級に相当するのとした。
・ アルバイト(固定時32歳,自賠責はびまん性脳損傷等による神経・精神の障害7級)につき,事故後居酒屋や喫茶店での勤務を試みたが仕事が覚えられない等の理由によりごく短期間で辞めている等の状況を踏まえ,35年間60%の労働能力喪失を認めた。
・ 大学生(固定時21歳,自賠責は非該当)につき,腰部及び右下肢の症状,頸部及び右上肢の症状並びに右上下肢の運動機能障害(右不全麻痺)及び脳機能に関する症状は,頭部外傷に起因するものであり,事故後の意識障害が確認できず,画像診断で有意な所見を見いだすことができないとしても,それらを絶対視して高次脳機能障害の存在を否定することは相当ではないとして,7級に該当するとした。
愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
高次脳機能障害が残ると,被害者のみならず介護を行う近親者の生活が,事故前とでは一変することになります。被害者だけでなく近親者の将来の不安を少しでも解消するためには,適正な後遺症の等級認定を受け,適正な賠償金を得ることが大切です。
逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。