【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(2)
交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。
消極損害その2 後遺症による逸失利益(2)
2.基礎収入
(1)有職者
① 給与所得者
給与所得者の基礎収入は,原則として事故前の収入を基礎とします。
現実の収入が賃金センサスの平均額以下の場合,平均賃金が得られる蓋然性があれば,賃金センサスが認められる場合があります。
また,若年労働者(事故当時概ね30歳未満)の場合には,全年齢平均の賃金センサスが基礎収入となります。
<後遺症逸失利益の基礎収入に関する裁判例>
・ 症状固定後の最新の賃金センサスを基礎とした。
・ 副住職,若年,後遺障害1級(症状固定後79日後に死亡)につき,実収入は350万円であったが,被害者の年齢,学歴,将来の予定(将来は弟が寺を継いで被害者は理工学系の仕事あるいは研究に従事)から,賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 会社員,併合14級につき,事故の翌年の年収は賃金センサスの約85%であったが,当該年度は治療等のため休業を余儀なくされていた状況下であったこと,事故当時まだ勤続年数が少なく,その先稼働を続けた場合には定期昇給等による年収増加が充分予想されることから,学歴,能力,勤労意欲等から,賃金センサス男性高卒全年齢平均を基礎とした。
・ 派遣会社員,併合11級につき,事故前3ヶ月の収入は平均賃金以下であったが,過去には平均賃金を超える収入を得ていた時期もあり,再就職の可能性もあることから,賃金センサス男性学歴計全年齢平均の7割を基礎とした。
・ 会社員,1級3号につき,事故年度の収入は平均賃金以下であったが,事故が転職間もない時期であったことから,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 銀行員,1級3号につき,同期入社社員の上昇率(5%)を参考に症状固定時の推定年収額を認定し,これを基礎として定年時までの逸失利益を算定した。
・ 会社員,若年,10級につき,事故後退職して専門学校で修学後,契約社員となり,減収はないが,疼痛を我慢していること,1年間の契約社員で継続雇用が不確定な状況から,事故時の収入は平均賃金以下であるが,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 会社員,併合4級につき,大学は2年半で中退しており,事故前年の年収はその年に就職したため平均賃金以下にとどまるものの,事故2年前,3年前の年収がいずれも賃金センサス男性大卒年齢別平均額を上回っていたことから,賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 料理人,併合12級につき,事故前年の年収が賃金センサス男性年齢別平均額を上回っていたことから,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 救命救急士の資格を有する消防士,11級につき,学歴は高卒であるが,事故前年の年収は大卒男性年齢別平均額を6%上回っていたことから,賃金センサス男性大卒全年齢平均の6%増しを基礎とした。
・ 運転手,併合2級につき,本件事故前の休業損害証明書上の収入は平均賃金以下であったが,運送会社に就職したばかりであり,今後収入の増加が見込まれる長距離運送に従事することが期待できたこと,労働能力喪失期間の長さ等を考慮し,賃金センサス男女計学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 運転手,併合11級につき,事故前年の年収は平均賃金以下であるが,勤務先会社の給与体系は基本給・考査給・各種手当てからなっており,勤続年数や経験に応じて号棒が順次昇格し考査給が昇級する可能性があり,班長に任命されれば班長手当も付加されること,まもなく昇格すると見込まれていたこと等から,班長職のトレーラー運転手の平均年収を基礎とした。
・ 宮大工見習い,併合12級につき,宮大工としての収入は平均賃金以下であったが,本件事故により転職を余儀なくされ,事故後は収入が増加していることから,賃金センサス女性大卒全年齢平均の95%を基礎とした。
・ 会社員,併合9級につき,事故前年の年収は平均賃金以下であるが,勤務先の会社の経営状態による可能性があるとし,資格を有していることや年齢を考慮して,賃金センサス男性学歴計全年齢平均の7割を基礎とした。
・ 派遣社員,14級9号につき,事故前年の年収は平均賃金に及んでいなかったが,事故当時に契約社員になる話が来ており,契約社員になれば年収の増加は容易に推認できることなどから,事故時の賃金センサス女性学歴計全年齢平均と同等程度の金額を基礎とした。
・ 高卒ガソリンスタンド勤務,12級につき,事故前年の収入は平均賃金以下であるが,危険物取扱者の資格を取っていることなどから,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ タクシー乗務員,68歳,10級につき,会社の就業規則では定年後65歳まで再雇用とされているが,満71歳の乗務員も在籍していることなどから,基礎収入を70歳までは事故時収入,その後は賃金センサス男性高卒70歳以上平均とした。
・ 使用期間中の事故により休業し,復職できないまま退職したトラック運転手,14級9号につき,事故に遭わなければ使用期間後正式採用される蓋然性があったとして,求人票の基本給や賞与の平均値等より算出した額を基礎とした。
愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な算定方法で請求することが大切になります。
就業後間もない方や会社の事情等で給与が減額されていたなど,被害に遭われた方の収入状況は1人1人異なりますので,適正な基礎収入で逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。