【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(8)

2021-12-20

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(8)
2.基礎収入
(3)無職者
  ① 学生・生徒・幼児等
学生・生徒・幼児等の基礎収入は,賃金センサス学歴計男女別全年齢平均となります。
女子年少者の逸失利益については,女性労働者の全年齢平均賃金ではなく,男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的です。
また,大学生になっていなくても大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合もあります。ただし,大卒の賃金センサスによる場合は,就労の始期が遅れるため,損害額が学歴計平均額を基礎とするより減ることもあります。

・ 予備校生の1級につき,大学進学を目指して予備校に通学し勉強に励み成績は優秀で,母は音楽教室を経営し大学進学に十分な資力を有していたことを考慮し,賃金センサス女性大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 薬学系博士課程在学中の被害者,高次脳機能障害1級につき,学業優秀で製薬会社から内定後入社まで3年間奨学金を受けていたこと等から,入社が確実で将来少なくとも次長になる蓋然性は高いとし,定年の60歳までは同社の年収の近似値である賃金センサス男性大卒全年齢平均の1.4倍,以降67歳までは賃金センサス男性大卒60歳~64歳平均を基礎とした。
・ 大学生の高次脳機能障害併合1級につき,幼い頃から書道に才能を有し,書道関係では名門とされる大学に入学し,大学での課程を通じさらに特別な技能として習得するに至っていた点に照らし,賃金センサス女性大卒全年齢平均に1割加算した額を基礎とした。
・ 高校卒業後米国留学,一時帰国中の被害者,両下肢麻痺等1級につき,賃金センサス男性高卒全年齢平均を基礎とした。
・ 予備校生の両下肢足趾完全麻痺等1級につき,事故当時大学入学を目指して浪人中であったが,塾の大学受験科トップレベル国公立大医進コースに在籍したことが認められる上,昨今の大学進学率等を照らすと,大学に進学できた蓋然性があるとして,賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 警察官採用内定の大学生の高次脳機能障害7級につき,警視庁警察官の平均年収は賃金センサス男性大卒全年齢平均の約1.2倍に相当し,大卒の警視庁警察官の離職率の低さから定年退職まで勤務した可能性は相当程度うかがえるが,定年まで就労した蓋然性が高いとまではいえないとして,賃金センサス男性大卒全年齢平均の1.1倍を基礎とし,退職金を考慮しない一方,67歳までを認めた。
・ 中学生の左肩関節機能障害10級につき,進学した高校を1年生時に退学したが,その後通信制の高校に入学し卒業見込みであること,若年であり将来の職業も具体的に定まっていないことなどを考慮し,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 高校生の高次脳機能障害5級,頭部手術痕12級,併合4級につき,事故当時大学附属高校に在籍し,現に大学に進学したことなどから,賃金センサス全労働者大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 専修学校の学生の左母趾機能障害等12級相当につき,専門課程の同コース卒業生の大部分は自動車メーカー系列ディーラーにメカニックとして就職していることなどから,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 幼稚園児の左腓骨偽関節,左足関節機能障害等併合7級につき,現在,大学薬学部6年生であり,卒業後は製薬会社に就業予定であること等を考慮し,賃金センサス女性薬剤師全年齢平均に近い500万円を基礎とした。
・ 高校卒業後海外留学予定者の背部痛,腰痛を含む脊柱変形8級相当につき,アルバイトや大学での授業に支障を生じており,脊柱変形が器質的異常により脊柱の支持性と運動性の機能を減少させ,局所等に疼痛を生じさせうるものであることを考慮し,賃金センサス女性大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 小学生の右足の第2から第4趾の中足指関節から喪失,右足背から側面全域の瘢痕等併合11級につき,現在通学する大学看護学部の卒業生の内看護師志望の学生の国家試験合格率は毎年ほぼ100%であること,同大学を卒業した看護師の半分以上が同大学病院に就職していること等から,大学病院の看護師相当の収入を得る蓋然性があるとして,賃金センサス100-999人の企業規模の看護師給与平均を基礎とした。
・ 卒業後税理士を目指して勉強中の大学生,左肢関節機能障害10級につき,大学を卒業し,症状固定時26歳と若年であったことから賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎とした。
・ 高校生につき,事故後に大学医学部に進学していること等から,賃金センサス女性医師全年齢平均を基礎とした。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な算定方法で請求することが大切になります。
 無職者のうち学生・生徒・幼児の逸失利益については,症状固定の年齢や進学先,目指す職業等,一人一人異なっているため,適正な基礎収入で逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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