【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(3)

2021-11-05

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

 

消極損害その2 後遺症による逸失利益(3)
2.基礎収入
(1)有職者
  ② 事業所得者
自営業者,自由業者,農林水産業などについては,申告所得を参考にします。申告額と実収入額が異なる場合には,立証があれば実収入額を基礎とすることができます。
所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には,所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定します。
また,現実収入が平均賃金以下の場合でも,平均賃金が得られる蓋然性があれば,男女別の賃金センサスが認められる場合があります。
現実収入の証明が困難なときには,各種統計資料によって算定することもあります。

  <事業所得者の基礎収入に関する裁判例>
・ 事故後建築士事務所を独立開業した1級建築士,左膝機能障害10級につき,資格が男女平等であり,性別の差が賃金センサス上の賃金のように顕著な差異を生ずるものではないとして,賃金センサス男性大卒年齢別平均を基礎とした。
・ 日給制で雇用されている塗装工,右肩関節の可動域制限10級につき,個人事業主としての申告所得は低額であったが,実際の経費は通信費および消耗品費程度であるとして,事故前年の年収から5%の経費を控除した金額を基礎とした。
・ 花屋経営の嗅覚脱失,精神神経症状等併合11級につき,事故前年所得は否定されたものの,顧客増加により事故前々年より売上が大幅に増えていたこと,花関係の会社に勤めていたときに平均賃金より高額を得ていたこと,健康であれば花屋を閉店して会社に正社員として復帰できる蓋然性もあることなどから,賃金センサス高専短大卒全年齢を基礎とした。
・ 米穀や灯油の卸・販売,設置配管工事業の右第3,4趾欠損13級につき,確定申告上は所得がマイナスで実際の所得も明らかではないが,現実に労働能力の一部を喪失し,これが事故後の事業の縮小と無関係とまではいえないとし,家族の寄与等を考慮して,各種商品小売業者全労働者平均の7割を基礎とした。
・ 建設自営業の精神神経症状等併合4級につき,事故前々年,事故前年の所得は賃金センサスより低額であったが,営業収入が高額であること,以前は賃金センサスを上回る所得があったこと,原価・経費計上分の一部に個人使用分が含まれていること等から,賃金センサス男性学歴計年齢別平均を基礎とした。
・ 弁理士の左下肢のしびれ・疼痛,左後頚部の疼痛・緊張等併合12級につき,事故前の弁理士業務による所得は変動があり安定しているとは言い難いから,基礎収入は5年間の営業所得の平均額とし,それに自らが経営する特許事務所補助業務の会社からの収入を加えた金額を基礎とした。
・ 高卒の自動車整備業・自動車販売業の四肢麻痺及び膀胱直腸障害9級につき,事故前の年収は低額であるが,独立から間もない時期であり,固定時の年齢が30歳であることをかんがみれば,将来は高卒全年齢平均賃金を得るであろう蓋然性が認められるとし,賃金センサス男性高卒全年齢を基礎とした。
・ 鉢花を生産する農業事業者の右半身麻痺,失語症,注意力障害等,右同名半盲併合2級につき,農業収入は農作物価格等によって変動するから,事故前年の金額を直ちに基礎収入とすることは相当ではない場合があるとし,専従者給与を控除した事故前々年度と前年度の平均を基礎とした。
・ 居酒屋営業の右膝可動域制限及び関節の動揺性,左足関節痛併合11級につき,開業約1ヶ月後の事故であり,また3ヶ月で廃業しており,この間に得た利益額は不明であるが,年齢に対応した平均賃金等に照らすと,開業以前の貿易会社勤務時の所得により算定することに一応の相当性が認められるとして,同所得を基礎とした。
・ 飲食業・農業の高次脳機能障害3級につき,青色申告控除前所得に,飲食店の手伝いをしていたが給料を渡さなかった義母の専従者給与の3分の2を算入し,同様に算入した3年間の平均を基礎とした。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な算定方法で請求することが大切になります。
 事業所得者は,事業内容や事業を開始してからの年数,確定申告の状況等,1人1人状況が異なりますので,適正な基礎収入で逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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