【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(10)
交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。
消極損害その2 後遺症による逸失利益(10)
2.基礎収入
(4)失業者
労働能力,労働意欲があり,就労の蓋然性があれば,逸失利益が認められます。
再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで,その場合,特段の事情のない限り失業前の収入を参考にします。
ただし,失業以前の収入が平均賃金以下の場合には,平均賃金が得られる蓋然性があれば,男女別の賃金センサスを基礎収入として逸失利益を請求することができます。
・ 生活保護受給者につき,事故当時兄弟と相談し商売を始めることを考えており,就労意思と能力を有していたとして,事故時の年齢の平均給与額を基礎とした。
・ 固定時69歳,無職者の右頚部痛,肩の痛み,右前腕尺側のしびれ12級につき,技術を有し具体的な就職予定も存したなど,就労の蓋然性は通常の同年齢の者より高いとして,男性労働者68才の平均を基礎とした。
・ 固定時29歳,フリーターの左下肢の鈍痛14級につき,事故間近の就労実態を認め難いことから休業損害は否定したが,症状固定後就労の意思があると認められることなどから,賃金センサス男性学歴計25歳から29歳平均の8割を基礎とした。
・ 勤務先の倒産による離職後,再就職内定中の被害者,頚椎捻挫14級につき,著名な私大経済学部を卒業し,就職後留学してMBAの資格を取得していること,倒産前の勤務先では大卒平均の1.18倍の給与を得ていたことからすれば,事故当時の就職内定先から年俸1500万円の内約があったこともあり得るとして,1500万円を基礎とした。
・ 就職活動中で事故当日に採用通知を受けた正看護師の資格を有する被害者,下肢短縮13級につき,前の職場での主たる職務は施設職員の指導であり,将来も同様の職務を担当することが予想されることから,事故前年の給与所得額を基礎とした。
・ 無職者の高次脳機能障害等3級につき,比較的若年で,介護士になる希望を持ち専門学校への進学が決まっていたこと,事故前に正社員として勤務していた勤務先を退職後も複数のアルバイトに従事し月額10万円程度の収入を得ていたことから,労働能力及び労働意欲があり,専門学校卒業後に就労先を得る蓋然性が高いとして,賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎とした。
・ 固定時29歳,女性,無職者の高次脳機能障害2級につき,原審は「昨今の厳しい経済状況及び雇用情勢」などから賃金センサス女性学歴計年齢平均の70%を基礎としたが,事故時家事労働に従事していたこと,将来的には就職を希望していたこと,若年で婚姻の可能性があることなどから,控訴審では賃金センサス女性学歴計全年齢平均の100%を基礎とした。
・ 高校時代からうつ状態が発現し,クリニックに通院しながら高校,大学を卒業して就職するも職を転々とし,事故前後においてはうつ病で入院していた生活保護受給者の右肩関節機能障害10級につき,うつ病は治癒するものであり,実際に軽快した様子が窺えるとして,賃金センサス男性大卒全年齢平均の7割を基礎とした。
・ 無職者の脾臓摘出,右膝痛等併合11級につき,症状固定までに就労の蓋然性があったとし,事故前の1年2ヶ月前の前職の給与の90%を基礎とした。
・ 勤務先の自動車販売会社をうつ病により休職後,休職期間満了により退職し事故時無職であった被害者の右股関節痛等12級につき,うつ病により就業可能な状況ではなかったが,事故後障害者枠による契約により就労しており,将来にわたり就労する蓋然性が認められるとして,休職前給与額を基礎とした。
・ 車両整備の専門学校卒業後から事故まで1年程度のアルバイトを除き10年以上正社員の経験がない無職者,脊柱の運動障害,非器質性精神障害併合8級相当につき,事故以前の職歴・稼働実績に照らし,賃金センサス男性高卒全年齢平均の7割を基礎とした。
・ 就活中・家業手伝いの右肩関節の機能障害等併合12級につき,就職を予定していた会社の給与は低額であるが,昇給や条件のよい就職先への転職もあり得ること,事故前年の給与額は420万円程度であることから,その7割を基礎とした。
愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な算定方法で請求することが大切になります。
失業者の逸失利益については,労働能力,労働意欲,就労の蓋然性があれば請求できますので,適正な基礎収入で逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。