【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(4)

2021-11-16

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(4)
2.基礎収入
(1)有職者
  ① 会社役員
会社役員が受け取る役員報酬には,実際の労務提供の対価としての報酬と,労働しなくてももらえる利益配当の実質をもつ報酬の2種類が含まれています。
労務提供の対価部分は認められますが,利益配当の実質をもつ部分については消極的です。

  <会社役員の基礎収入に関する裁判例>
・ 鳶工事業の有限会社経営兼鳶職人,右膝動揺関節,右股関節機能障害併合9級につき,同族会社であり,被害者は職人の差配,現場監督のほか鳶として現場作業にも従事し,事故後休職中は給与の支払いを受けず,復職後も給与が減額されていること,他方で会社の売上,営業利益及び当期利益は事故前と事故後で大差のないこと等から,事故時の給与年額の65%を労働対価部分とした。
・ 土木工事の施工管理会社役員,左膝動揺関節8級につき,会社は被害者とその妻のみで他の従業員はおらず,実質的に被害者が全ての業務を行っていたこと,被害者自ら施工管理業務を遂行し,外注している技術者にも助言・指導を行っていたこと等から,役員報酬全額を労務提供部分とした。
・ ITコンサルタント会社代表,左足関節の機能障害,左足指の欠損障害6級につき,高度の専門性,経験,知識等を要求されるITコンサルタントとしても労務を提供していたが,事故後は歩行困難により顧客企業に出向いてのシステムの導入,サポート等の機動的な業務遂行や機敏な対応が不可能になった結果,会社の売上が相当減少しているとして,事故前の年収の80%を労務対価部分と認めた。
・ レーザー機器の研究開発会社代表者,頚部痛14級につき,経営者であると同時に中心的研究者であったこと,会社の規模・年商額等を考慮し,事故前年の役員報酬全額を労働の対価部分と認めた。
・ 会社代表取締役,神経症状14級につき,持ち株比率が被害者50%,妻30%の同族会社であること,従業員数が少ないことや他の従業員の給与,社員らの中で最も長時間勤務し,施工現場監督も行い,直接担当する顧客もあり,事故後に売上高,売上総利益,損益がいずれも低下ないし悪化したこと等から,役員報酬の全額を労働対価部分とした。
・ スポーツ用品販売等の会社代表の頚部痛,腰痛併合14級につき,役員報酬は事故のおよそ7年前から定額であること,事故前年は休業に数に応じた形で減額されていること,決算業務をはじめとして職責が大きいこと,株主配当が行われていないこと,症状固定後において為替差損による損害を理由に減額されており必ずしも提供労務量に比例していないこと等から,役員報酬額の7割を労務対価部分と認めた。
・ 印刷機器販売等会社代表者,右上肢変形障害,右股関節神経症状,頭部神経症状併合7級につき,一人会社であり,親族が経理事務等を手伝うほかは本人が単独で印刷機器の販売等を行っていたことから,役員報酬全額を労働対価部分と認めた。
・ 会社代表者,右足関節機能障害10級につき,会社の経費の一部が生活費に充てられ,実質的には収入になっていたとして,これらを加算した金額を営業活動等の労働対価部分とした。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 特に逸失利益は,賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な算定方法で請求することが大切になります。
 会社役員は,会社の規模や被害者がどの程度労務を行っていたか等,それぞれ状況が異なりますので,適正な基礎収入で逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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