【コラム】:損益相殺・損害の補填等(13)
被害者またはその相続人が事故に起因して何らかの利益を得た場合,当該利益が損害の補填であることが明らかであるときは,損害賠償額から控除する場合があります
4.人身傷害(補償)保険
(1)代位の範囲等
人身傷害(補償)保険に基づく保険金請求権と加害者に対する損害賠償請求権との関係については見解が分かれていましたが,人身傷害(補償)保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲等が争われた事案につき,最高裁は,人身傷害保険金を支払った保険会社は,「保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する」という,いわゆる訴訟基準(裁判基準)差額説を採用しています(最判平24.2.20)。
なお,被害者が損害賠償金受領後に人身傷害保険金を請求した事案については,受領した損害賠償金の控除方法につき見解が分かれています。
・ 人身傷害条項のある本件普通保険約款によれば,同条項に基づく保険金は被害者が被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないとして,被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払い請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払い請求権を代位取得するものではないとした。
・ 被害者の遺族に対して人身傷害保険金を支払った保険会社が,被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得したとして賠償請求した事案で,人身傷害補償条項の被保険者である被害者に過失がある場合,保険金を支払った保険会社は,約款中の代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」の額として,被害者について民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)に相当する額が保険金請求権者に確保されるように,支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当であるとした(最判平24.5.29)。
・ 被害者が,加害者との示談後,被害者の過失割合分に相当する裁判基準にしたがった人身傷害保険金を請求した事案につき,示談額が人傷基準に基づく保険金額を上回ることから,保険約款によれば支払われるべき保険金はないとした。
・ 保険金を支払った人身傷害保険会社が,自賠責保険会社から回収した自賠責損害賠償額の一部は,裁判基準差額説によれば人身傷害保険会社が請求権を代位取得していなかったにもかかわらず受領したもので,法律上の原因なく利得したとして,訴訟外で対人賠償責任保険契約に基づき被害者に示談金を支払った保険会社の人身傷害保険会社に対する不当利得返還請求が認容された。
・ 人身傷害保険金の支払いを受けた被害者が加害者に損害賠償請求した事案において,素因減額をする場合に,当該素因が人身傷害保険の限定支払条項にいう既存の身体の障害又は疾病に当たるときは,人身傷害保険金の支払いに際して,限定支払い条項に基づく減額をしたか否かにかかわらず,被害者に支払われた人身傷害保険金は,当該素因の影響に掛かる部分を除いた損害を填補するものと解すべきであり,被害者に対して人身傷害保険金を支払った保険会社は,支払った人身傷害保険金の額と素因減額をした後の損害額のうちいずれか少ない額を限度として被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当であるとした。
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