【コラム】:消極損害その1 休業損害(1)
交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。
消極損害その1 休業損害
休業損害とは,交通事故の被害者が,治療や療養のために休業したことによって得ることができなくなった収入・利益の損害のことです。
これ以上治療を続けても症状が良くならない状態に達したことを症状固定といいますが,症状固定時まで,休業損害は請求できます。
なお,後遺障害が認められ,将来にわたって収入が減少するであろう損害を逸失利益といいますが,簡単に言えば,症状固定前の収入減が休業損害,症状固定後の収入減が逸失利益です。
1.有職者
(1)給与所得者
事故前3か月の総支給額(社会保険料などを控除しない)を基礎収入とし,90日で割った日額に休業日数を乗じた金額が基本の算定方法となります。
請求するには,勤務先に記載してもらった休業損害証明書(休業日,事故前3か月の給与支払い状況等),事故前年の源泉徴収票を提出する必要があります。
ア 基礎収入の算定・賃金項目についての事例
入社して間もない場合や内定中の場合は,雇用契約書に記載されている基本給をもとに基礎収入を算出することがあります。
複数の職場で勤務している場合,それぞれの職場で休業があれば,職場ごとに休業損害を請求することができます。
事故により配置転換や降格があり,手当等が減額した場合は,減額された手当分を請求することができます。
事故による退職金減額分を,事故による休業に付随する損害ととして認めた事例もあります。
イ 昇給を考慮した事例
休業中に昇給,昇格のあった場合は,その後の収入を基礎とします。
また,休業により昇給,昇格が遅れた場合,賞与が減額,不支給となった場合の損害も認められています。
ただし,昇給が確実であることや,昇給金額など,勤務先の昇給基準などの証拠から具体的に昇給分を立証する必要があります。
ウ 賞与
賞与についても,勤務先に記載してもらった賞与減額証明書と就業規則,賞与規定を提出し,支給されるはずであった賞与の金額が事故によりどの程度減額されたのかを立証する必要があります。
エ 休業期間の認定
休業期間については,争いになることが多くあります。
症状固定時まで休業損害は請求できますが,実際には症状の程度や推移によって,認められる期間は異なってきます。
主治医に休業を指示されている場合,休業の必要性があると医学的に認められている場合は,認められやすい傾向があります。
また,タクシー乗務員につき,業務ができない状態ではなかったが,乗客の安全から中途半端な状態で復帰しないよう職場から申し渡され,認められた事例もあります。
オ 有給休暇
有給休暇を使った場合は現実の収入減はありませんが,有給休暇は財産的価値を有すべき権利であって,それが本件事故により費消させられたため,有給の財産的価値についても休業損害として請求できます。
なお,積立休暇についても,有給休暇と同様に財産的価値があるものと認められています。
また,事故による休業のため,出勤日数が全労働日の8割に満たなくなったことによる事故翌年度発生分,翌々年度発生分の各10日間の有給休暇減少分を認めた事例もあります。
カ 減収がなくとも認められた事例
金銭的な減収が直接生じていなくても,本人や同僚の特段の努力によって減収を回避した場合には,一定の割合で休業損害の発生を認めるのが公平に資するとして,休業損害に準ずる損害として30%が認められた事例があります。
キ 症状固定(治癒)前に退職した事例
症状固定(治癒)前に退職した場合,事故と退職に相当因果関係が認められれば,症状固定日までの休業損害が請求できます。解雇ではなく自主退職の場合でも,相当因果関係が認められれば,請求できます。
なお,相当因果関係が認められないものの自主退職した場合については,事故前の収入によらず,賃金センサスを基礎にして休業損害が認められた事例があります。
派遣社員についても,事故のために契約更新ができな買った場合,契約期間終了後まで休業損害が認められた事例があります。
事故による欠勤を理由に解雇された場合,傷害が治癒したからといって直ちに再就職できるものではないとして,治癒後も休業損害を認めた事例があります。
愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,2年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
特に休業損害は,支払われないことで生活が困窮する場合もありますので,ひとりひとりの事情を詳しくお伺いして,適正な金額を請求することが大切です。
しまかぜ法律事務所では,様々な休業損害の請求事例がありますので,適正な賠償額で解決するためにも,ぜひ,ご相談ください。