【コラム】:消極損害その2 後遺障害逸失利益(23)

2022-05-13

 交通事故の被害に遭い,加害者へ請求できる損害賠償には,積極損害,消極損害,慰謝料があります。
 積極損害とは,事故により被害者が実際に支払った費用のことで,治療費や通院交通費などです。消極損害は,事故に遭わなければ被害者が得られたであろう将来の利益のことで,休業損害や逸失利益です。慰謝料は,事故に遭うことで受ける肉体的・精神的な苦痛に対する賠償金です。
 請求できる内容や注意点など,詳しくご紹介します。

消極損害その2 後遺症による逸失利益(23)
8.神経系統の機能又は精神の障害
(2)高次脳機能障害
   高次脳機能障害とは,交通事故によって脳が損傷することで,①記憶障害(覚えられない,思い出せない,すぐに忘れる),②注意障害(気が散りやすい,集中できない),③遂行機能障害(手順良く作業を行うことができない),④人格障害(怒りっぽくなる,疑いやすくなる),⑤コミュニケーション障害が生じることです。
   自賠責では1級~9級が認定されますが,認定基準は,①初診時に頭部外傷の診断があること,②頭部外傷後に意識障害があったこと,③治療中の診断書,後遺障害診断書に,高次脳機能障害,脳挫傷,びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷の記載があること,④治療中の診断書,後遺障害診断書に,障害の具体的な症状が記載されていること,⑤CT,MRI画像により,初診時の頭部損傷,受傷後3ヶ月以内に脳室拡大や脳萎縮が確認されることです。
   上記の自賠責保険の認定基準を理解した上で,認定のために必要な検査を行い,後遺症の申請にあたって近親者が作成する日常生活状況報告表に書く内容(被害者が一日どう過ごして何に支障があるか、具体的内容、エピソードなど)を日頃からメモしておくことが大切です。

 ① 認定例
  ・ 高校生(固定時18歳)につき,事故後親が送迎して復学,大学へ進学(ただし,途中で授業についていけなくなった),携帯電話でのメール,ギター,近所での買い物等もでき,ある程度の認知,判断及び学習能力を備えているが,大学進学は担任教師の配慮であり,初めての場所で道に迷う,ストーブの火をつけたまま忘れるなどの物忘れ症状があり,学習にも大変な時間と労力を要すること,切れやすい状態で易怒性や易興奮性が認められ,新たな人間関係が構築されている様子は見られないこと等から,自賠責認定どおり5級の高次脳機能障害と認めた。
  ・ 大卒会社員(固定時36歳)の記銘力障害,笑い発作等(併合7級)につき,復職後収入は増加しているが,配置転換のうえ係長職を解かれたこと,知能指数が96となったこと,仕事を継続できているのは勤務先の理解と本人の多大な努力による部分が大きいこと,今後の昇進が相当に困難であることから,31年間56%の労働能力喪失を認めた。
・ 精肉店勤務(固定時25歳)の高次脳機能障害(3級),言語機能障害併合2級につき,一時的に元の職場に復帰し843日後に退職しているが,復職は社長の好意によるところが大きいとして,100%の労働能力喪失を認めた。
・ デザイン担当嘱託社員(固定時45歳)の高次脳機能障害(5級),嗅覚障害,味覚障害併合4級につき,事故後復職し,デザイン能力は低下しておらず会社も能力を高く評価していたが,記憶力や持続力の低下,協調性の問題などの人格変化によりトラブルが発生して退職している一方で,完全に就労不能とはいえず,嗅覚障害,味覚障害は労働能力に影響しないことから,85%の労働能力喪失を認めた。
・ 大卒の建築請負業者(固定時53歳)の頭部外傷(脳振盪型)につき,現在の医療検査技術で脳の器質的損傷を示す異常所見が見当たらないからといって,事故後の記憶障害,易怒性,意識低下等の症状が脳の器質的損傷によることを否定することは相当ではないことから,高次脳機能障害9級として,14年間35%の労働能力喪失を認めた。
・ バリスタの高次脳機能障害につき,知能低下,記憶障害,記銘力・集中力低下,学習障害が残っている反面,事故後ジャパンバリスタチャンピオンシップで優勝し,世界大会で10位を獲得し,講演会の講師を務めたこと,著述があること,並びにテレビ番組の出演があり,増収の事実があるが,体に刻まれた修練や経験,講演案文の第三者作成,ライターの援助などによるものであって,潜在的な労働能力の喪失を観念することができるとして9級10号に該当するとしたが,日常生活の支障が限定的であることを勘案し,労働能力喪失率は27%とした。

 愛知県では,愛知県警の取り締まり強化により,3年連続で交通事故死者数全国ワーストを脱却しましたが,未だ多くのご遺族が交通死亡事故の被害で苦しんでいます。
 交通事故の被害に遭い,加害者に請求できる内容は,被害に遭われた方の症状や職業等によって,それぞれ変わってきます。
 高次脳機能障害が残ると,被害者のみならず介護を行う近親者の生活が,事故前とでは一変することになります。被害者だけでなく近親者の将来の不安を少しでも解消するためには,適正な後遺症の等級認定を受け,適正な賠償金を得ることが大切です。
 逸失利益は賠償項目の中でもっとも高額となりますので,適正な逸失利益を算定するためにも,ぜひ,弁護士法人しまかぜ法律事務所に,ご相談ください。

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