【コラム】:人身傷害保険を利用後に相手方へ請求できるか(裁判基準差額説)

2015-10-25

物損扱いでも治療費の支払いが受けられます被害者やその家族が加入する保険に人身傷害保険が備わっていれば,自分側の保険会社から,治療費や慰謝料などの補償を受けることができます。

まず,どのような場面で人身傷害保険を利用すべきでしょうか。

人身傷害保険は,被害者の過失割合に関わらず約款で定められた補償額が支払われるというメリットがありますが,弁護士基準と比べて低額というデメリットがありますので,通常の場面では利用する必要はありません。

人身傷害保険を利用するのは,加害者が保険に加入していない場合や,こちらにも過失が大きい場合など限定的な場面でのみです。

では,人身傷害保険で定額(かつ低額)の補償を受けた後,相手方へ請求できるでしょうか。

被害者に過失がある場合でも,人身傷害保険を利用するときは過失割合にかかわらず定額の補償がされますが,利用後に相手方に請求するときは過失相殺されます。

そこで,過失相殺されても相手方の請求額が,人身傷害の補償額を上回れば,相手方に請求することができます。
上回るかどうかを判断するためには,どのように過失相殺されるかを知る必要があります。

すなわち,①過失相殺分は,被害者の請求側で考慮されるのか(絶対説),②人身傷害保険側で考慮されるのか(裁判(訴訟)基準差額説)という問題です。人身傷害保険を利用した場合,自分側の保険会社も補償額の範囲で相手方に請求していくことになるため(求償),どのような考えが適正かについて長く争われてきました。

話しが難しいので,具体例を挙げて説明します。
(弁護士基準での損害が総額1000万円,人身傷害保険での補償額が500万円,過失割合が20:80の場合)

 

①絶対説

被害者は,人身傷害保険で補償を受けた差額分(1000万円-500万円=500万円)を請求したいところですが,過失相殺分(1000万円×0.2=200万円)は,被害者の請求側で考慮されるため,被害者が請求できる金額は,300万円となります。(500万円-200万円)。
一方,人身傷害保険から相手方への請求(求償)は500万円です。

 

②裁判(訴訟)基準差額説

過失相殺分(1000万円×0.2=200万円)は,人身傷害保険側で考慮されるので,人身傷害保険から相手方への請求(求償)は300万円になります(500万円-200万円=300万円)。
一方,被害者の請求できる金額は,500万円です。

この問題については,最高裁判所が,②裁判(訴訟)基準差額説を採用するに至りました(最判平成24年2月20日判時2145号103頁)。人身傷害保険とは,そもそも過失の有無にかかわらず保険契約者に補償する制度であるため,過失相殺分は人身傷害分で先に考慮すべきという考えです。

したがって,②裁判(訴訟)基準差額説でもって,過失相殺分を考慮し,過失相殺されて相手方に対する請求額が想定される場合には,人身傷害保険を利用した後でも相手方へ請求可能です。

 

しまかぜ法律事務所では,裁判(訴訟)基準差額説で請求して解決に至った多数の実績があります。人身傷害利用後の賠償額についても無料診断も行っています。人身傷害保険利用後の相手方への請求でお困りの方は,ぜひ,しまかぜ法律事務所にお問い合わせください。

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