【コラム】:素因減額(2)
素因減額とは,被害者がもともと有していた事情(素因)が影響して損害を拡大させた場合に,その影響の程度に応じて賠償金額を減額することです。
素因は,一般的に,被害者の精神的傾向である「心因的要因」と,既往の疾患や身体的特徴などの「体質的・身体的素因」とに分類されています。
減額の割合は,具体的事案毎に個別に判断されているのが現状です。
2.体質的・身体的素因(1)
(最高裁判例 減額肯定例)
・ 一酸化炭素中毒の既往症
一酸化炭素中毒に罹患していた被害者につき,潜在化ないし消失していた一酸化炭素中毒による各種精神的症状が,事故による頭部打撲により顕在発現して長期間持続し,次第に増悪して死亡したとしたうえで「被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害車に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患を斟酌することができるものと回するのが相当である。けだし,このような場合においてもなお,被害者に生じた損害の全部を加害車に賠償させるのは,損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである」と,50%の減額をした原審の判断を是認した。
(最高裁判例 減額否定例)
・ 首が長いという身体的特徴
「しかしながら,被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しないかぎり,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし,人の体格ないし体質は,すべての人が均一同質なものということはできないものであり,極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が,転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活においては通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別,その程度に至らない身体的特徴は,個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである」と,首が長くこれに伴う多少の頚椎不安定症がある被害者について,それを斟酌することを否定した。
(最高裁判決 減額肯定例)
・ 無症状の後縦靱帯骨化症
斟酌(考慮)の対象となる疾患につき,「加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか,疾患が難病であるかどうか,疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか,加害行為により被害者が被った衝撃の強弱,損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者の多寡等の事情によって左右されるものではない」とした。
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